初出：コロコロコミックNo.26（1980年6月号）
収録：てんとう虫コミックス第3巻／小学館コロコロ文庫第2巻／太田出版復刻版第1巻
ひどい虫歯に悩まされるあらしは歯医者へと向かう。治療の痛さを思いブルーになるあらしだったが、待合室にゲームが置いてあるのを見て大喜び。治療の済んだ子しか遊べないと聞き、いやで仕方がなかった治療が一転待ち遠しいものへと変わる。
ようやく順番が来て診察台につくと、歯医者はカルテに記された名前を見てハッとした。
「石野あらし………？ひょっとして…ゲームセンターあらしってのは」
「おれのことだい！テレビゲームやりたいんだから、早くしてくれよお。」
それを聞いた歯医者はニタリと笑うと壁のレバーに手を伸ばした。
「そうと聞いたら、かんたんに治療はできん！」
その途端、あらしの座る椅子から鉄の輪が出てきて手足の自由を奪う。そればかりか椅子がせりあがり、あらしはたちまち天井に開いた穴に飲みこまれてしまった。
あらしの閉じ込められたのはがらんとした真っ暗な部屋。その天井と壁に、突如迷路が浮かび上がる。これこそ歯医者が密かに開発していた、平安京エイリアンの改造立体バージョンであった。自分もあらしに負けず劣らずのゲーム狂であると言う彼は、あらしが勝てば治療代をただにするかわりに、もし負ければ麻酔なしで虫歯を抜くと言い出した。
虫歯の痛みのせいで集中できないかと思われたあらしだったが、ゲームが始まれば痛みなどなんのその。あっと言う間に一面をクリアしてしまう。しかしホッとしたのもつかの間、二面目では歯医者の開発した改造エイリアンの第二弾、「虫歯エイリアン」が待ち構えていた。なんとこのエイリアンは、迷路の壁を食い破って進んでいくというとんでもない代物であった。これでは秋葉掘り・隠居掘りなどの待ち伏せは役に立たない。しかも検非違使がやられる度に、手足を固定する鉄の輪を伝って、虫歯を痛ませるという特殊な電流があらしに流れる。
「ひひひ……、うれしいなあ。ひさしぶりに、麻酔なしで歯がぬける………！歯歯歯歯歯歯歯歯。」
何とかしたいあらしだが、手足をつながれたままでは必殺技も使えない。逃げ回るうちにもエイリアンはじわじわと増えていく。三人目の検非違使もやられ、残るはとうとう一人のみとなった。
「虫歯がいたまなけりゃ、もう少し神経が集中できるのに〜〜〜っ！」
何度も流れる電流に参ってしまい、つい弱音を吐くあらし。その口元を見た歯医者は大喜びする。
「ああ〜っ、前歯以外みんな虫歯！ぬきがいがある〜〜っ！」
しかしそれを聞いたあらしは、自分に残された最後の武器を思い出した。
「はっ！そ、そうだ！お、おれには………。この出っ歯があった！」
そう言うや否や、あらしは手足の自由を奪う鉄の輪に向け、出っ歯を振り下ろした。何と鉄の輪は出っ歯に砕かれ、ちぎれ飛ぶ。
「ば、ばかな！歯で、鉄の錠をこわすなんて！」信じられないという表情の歯医者。
「自由になればこっちのもんだ！どんなにエイリアンがいようとも、どんなに壁を食いあらそうとも…、おれには、月面宙返りと、炎のコマがある〜〜っ！！」
ワープする検非違使を見て驚く歯医者をしり目に、あらしはすごい勢いでエイリアンを埋め始める。
「しかし、これはかわせまい！見ろっ、あらし！」「うおおっ！」
今度は生き残ったエイリアンがその場で分裂、増殖し始めた。これではいくらやっつけてもきりがない。炎のコマの連発であらしの手はボロボロだ。
「こうなりゃ、もいちど出っ歯だ！」あらしは出っ歯でレバーを叩き始める。「おれの歯がいかれるのが先か。エイリアンが全滅するのが先か、勝負だあ〜〜〜っ！！」その猛攻に、さしもの虫歯エイリアン達もとうとう全滅した。
「さあ、約束どおり、ただで治療してくれよな。」とせまるあらしだったが、歯医者も往生際が悪かった。
「そうはいかん！鉄よりかたいその出っ歯、標本用にぬかせてもらう！」
「ぎゃ〜〜っ！！」
背中にしょった巨大ペンチをふりかざして迫る歯医者。壁際に追い詰められ、あらしピンチ！だが、そのペンチすらあらしの出っ歯の前には粉々に砕けてしまう。
「ヒハ〜〜ッ、お、おれの歯は、そんなにかたいのか！」
自分の歯に戦慄すら覚えるあらしであった。
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