初出：コロコロコミックNo.24（1980年4月号）
収録：てんとう虫コミックス第2巻／小学館コロコロ文庫第1巻／太田出版復刻版第1巻
待ちに待った春休み。思う存分ゲームをやろうと浮かれるあらしを呼び止める者がいた。「赤いタヌキ」こと担任の銀八先生である。彼はオール１のあらしの成績表を見せ、テレビゲームのやりすぎのせいだからゲームは禁止だと言う。成績が悪いのはゲームのせいでなく生まれつきだと頑として譲らないあらしに対し、ならばゲームで勝負しろと銀八先生はせまる。五人の先生が一日一人ずつ、五日間にわたる五種類のゲームの合計得点での勝負というデスマッチだ。
提案をのむあらしだったが、デスマッチということになれば一人ではあまりに不利だ。一平太に応援を頼むが、二年連続で落第している彼は今年も落第すれば退学という瀬戸際に立っていた。しばらく塾に通うつもりという言葉にあらしは助力を得るのを諦める。
対決は武道館で行われることになった。一日目、一組の担任天中先生との勝負はブロック崩しだ。最初のうちは断然リードするあらしだったが、八時間にわたる試合でやがてヘトヘトになってしまう。食事とトイレの時のみ認められているプレイヤーの交替もできず、体力の限界にきたところでようやく天中先生がミスして一日目は終了した。しかしこんな戦いがさらに四日続くのだ。「四日……、四日も持つんだろうか…？」
二日目、三日目、四日目…。一人きりで頑張るあらしだったが、次第に得点差は小さくなっていく。そして最終五日目、銀八先生との勝負はバルーンボンバーだ。
「バルーンボンバー！？そんなゲーム知らないぜっ！」
ようやくゲームセンターに出回り始めたばかりの新製品である。ゲームのこつが飲み込めないあらしはたった50点で一台目の砲台を失ってしまう。
そんなあらしをあざ笑うかのように、素晴らしいテクニックで得点をあげる銀八先生。彼はこの勝負のために、メーカーの人に頼みこみ、血マメが破けるほどの厳しい特訓を積んできたのだ。しかしプレイの様子を眺めていたあらしはニヤリと笑う。
「ふふっ。だめだぜよ、先生……。」「なんだとっ！！」
「おれにヒントを与えたら！そんするってこと見せてやる！くらえ〜っ、月面宙返り二段撃ちっ！」
初めてのゲームに対し、類稀なる適応力と見事な必殺技の応用で、風船と爆弾の両方を一気に撃ち落とし瞬く間に点を取り返すあらし。しかしそれを見ても銀八先生は余裕の表情を崩さない。
「ふふふ、そんなもの子どもだましだっ！見るがいいっ！月面宙返り六段撃ち〜〜〜つ！」
あらしを研究しつくしたという先生は、さらに上をいく必殺技で追いあげる。連日の戦いで疲れ切ったあらしはとてもかなわない。
「手も、足も……、鉛のように重くなっている……。」
その頃八本木中学では、一平太の退学をかけた数学の試験が始まろうとしていた。この日にむけて（珍しく）勉強してきた一平太は自信満々。「あらしだって、がんばってるんだ。負けるもんか……。」あらしのことが気になる彼はイヤホンで試合のラジオ中継を聞きながらテストを受け始める。
『あらしくん、ついに逆転される！』「うっ！」
「くそうっ、負けるか！そっちが六段撃ちなら、こっちは十段撃ちだっ！」
勝負をかけるあらしだったが、彼にはすでにそんな体力は残っていなかった。空中でバランスを崩し、床に叩き付けられるあらし。その隙に列車砲はさらに一台やられ、残るは一台となった。血の気の失せた顔でなんとか立ち上がるものの、どう見てももう限界を越えている。
「先生、やめさせて！」
そんなあらしの姿を見かねて、先生の一人が勝負を止めようとする。しかし銀八先生は言う。
「あらしとわたしは、もはや生徒と先生ではないっ！これは、男と男の勝負なんだっ！わたしが勝つか、おまえが勝つか、最後まで戦え、あらし！」
ゲーマーの魂に目覚めた先生の心意気にあらしも応える。
「先生！やるよ、おれはやるぜよ〜〜っ！いざ勝負〜〜〜っ！」
とはいえ疲れ切ったあらしはもはや倒れる寸前だ。立っているのもやっとという状態である。
「うおおおっ、あらし〜っ！」
耐え切れなくなった一平太は、退学処分を甘んじて受ける覚悟でとうとう教室を飛び出してしまう。
風船を一個ずつ落とすあらしをしり目に、銀八先生は華麗な月面宙返り六段撃ちで点差を広げていた。そしてあらしがついにばったりと倒れた瞬間、危ういところで一平太は武道館に到着する。
「一平太！おまえ、試験は？」
「うるせえ、そんなこたあどうだっていい。それより、そいつを！」と赤マムシドリンクを差し出す一平太。手を伸ばすあらしだったが、倒れた時に打ったらしく腕が思うように動かない。
「く、くそっ、負けるもんか…。退学かくごできてくれた、一平太のためにも……。」
ドリンクを飲み干したあらしは、渾身の力を込めて今一度必殺技を炸裂させる。「先生！見るがいいぜ！」
「必殺、月面宙返り、十二段撃ち〜〜〜っ！」「うお〜っ！！」
しかし技の途中で、ついにあらしの腕が動かなくなった。最後の一発を撃ち損じ、砲台は今にも爆弾に見舞われんとしている。あらしはいちかばちか再度ジャンプする。
「やられてたまるか！やられるものか！たとえ手が使えなくても…、おれには……、おれには、
「出っ歯がある〜〜っ！！」最後の一撃、あらしは自らの歯ををボタンに叩きつけた。奇跡的な逆転である。力の限り戦った教え子を見て、銀八先生もようやくその情熱の強さを思い知る。たとえこの後再逆転したとしても、彼のゲームにかける思いを止めることは誰にもできないだろう。
「うう……、なんたる執念…。おまえの勝ちだ、あらし…。」
「銀八先生！」
互いの健闘を讃え合い、駆け寄る二人に、観客は惜しみない拍手を与えた。その拍手は、試験を投げ出し駆けつけた一平太にもそそがれる。
「一平太のやつめ…。」その頃八本木中学には、テスト用紙を手にしたまま、一平太の置き忘れたラジオに聞き入る数学の先生の姿があった。
「おまえってやつは…」
先生は赤ペンを手にとると、間違いだらけのその答案に、大きく「１００」の数字を書き込んだのだった。
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